書評:「舞踏会」芥川龍之介(大正7年):龍之介中期の誉れ高い代表作

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 芥川龍之介 中期の代表作「舞踏会」のレビュー。

ストーリー

明治19年令嬢の明子は父に連れられて鹿鳴館で舞踏会デビューを果たす。
その時鹿鳴館は菊の花で飾られていた。
明子は周囲の人々が見とれる程の清楚で初々しい雰囲気を醸し出していた。
やがて一人のフランス人海軍将校が明子をワルツに誘う。明子もフランス人将校も言葉にこそしなかったがお互いに好意を抱いているようだった。
 
時を経て大正7年、小説家の青年がたまたま汽車で知り合いの年老いた明子と同席した。
青年が持っていた菊の花束を見掛け遠い昔の鹿鳴館での舞踏会の様子を詳しく青年に話し始める。
「その将校は「お菊夫人」を書いた小説家のピエール・ロディだったのですね」と青年が問うと明子は「いえ、ジュリアン・ヴィオと言う方ですよ」と答えるのみだった・・・
 
 
 
たった10頁ほどの短編だが、明子や彼女を取り巻く人物の心理描写、例えば明子の初々しい美しさに嫉妬の表情を浮かべる伯爵夫人、その瞬間を見逃さない明子の様子など。
そして鹿鳴館の風景の描写が挿絵もないのにありありと脳裏に再現される。
さすが文豪の筆力と言うところだろうか。
 
実在の小説家を虚構に登場させる手法はこの時に生み出されたのだろうか?
明子と踊った将校ジュリアンは「お菊夫人」を書いた小説家ロディその人であり、史実でも確かに明治19年のこの日に鹿鳴館の舞踏会に参加している。
明子夫人がかつてワルツを踊り、少しながら好意を抱いた相手が小説家として青年の記憶にある。しかし当の明子はそれに気付かない。
と言う微妙なオチで突然終了する小編だが、特段盛り上がりもないこのやりっ放し感の中に不思議な余韻を覚える作品だと思った。

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