お笑い芸人で芥川賞作家になった又吉直樹さんの近代文学評。
著者が近代文学にどう触れて来て何を感じたのかを書き綴っている。
著者が近代文学に関して、何故近代文学を読み続けるのかに対する答えは一貫して自分が考えて来た思考が近代文学で言い表されていると言うことに尽きるらしい。
こんな自分しか考えていないと思っていたことが全て太宰治や芥川龍之介によって書かれていると言うことにインパクトを受けて現在に至っていると言うことだ。
文学によって自分の視点を確認し、複数持つことが生きる上でいかに大切だったかをこの本で述べている。
著者は自分は頭が悪いと言う。
そして自分の様な主人公(ものの見方や考え方をする人物)がどのような行動をし、どのように感じるのかを追体験するのに文学は打ってつけな媒体であり、文学を楽しむのは頭の良し悪しは関係なくむしろ普段本に馴染みのない人ほど文学に触れて欲しいと断じる。
著者が頭が良いか悪いか別にして僕は近代文学に対してこのような視点は全く感じたことがなかったので、こうした視点と言うか読み方は一種新鮮なものを感じた。
太宰に代表される作品の主人公を自分に重ねて追体験するとどうしても気分が暗くなり読んでいるうちに内容が分からなくなり、最終的に読まなきゃ良かったとの結論になりがちだったので敬遠していたのだ。
ここで言われる社会の底辺から見る視点にも抵抗感があった。
しかしこうしてこの本を読んでみるとこの歳になってもう一度こうした近代文学の作品を読んでみようと思うようになった。
また感じたのは著者又吉直樹の創作に関する視点や着眼の鋭さである。
比べるべくもないが僕もこうして文章を書いているのでなるほどと共感する部分はあるが、創作時の言葉の選び方や使い方の閃きはよくそんな着想が出来るなと到底真似できないと思った。
著者の近代文学に対する愛情に溢れている。
これを読めばもう一度太宰や芥川を読んでみようかと言う気分にさせる一冊だ。
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