僕が巡り合ったボクサーな人々③ 理論と実績を備えたKトレーナー②~太郎のボクシング奮闘記24

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僕ら3人はKトレーナーを呼び戻すために彼が寝泊まりしている西成のドヤ街に向かった。

彼が戻る可能性には勝算はあった。

と言うのはその数時間前にジムメイトの試合があったのだ。

僕らはその応援に行っていたのだが帰宅途中にKトレーナーから結果はどうだったか?電話があったのだ。

辞めるつもりでも自分が手掛けた練習生の結果は気になってたらしい。

それがあったので、僕ら三人は今がチャンスとばかりに彼を呼び出して近所の酒場で飲んで忌憚のない話を聞いてから説得しようと試みたのだ。

 

季節は5月中旬。

休日だったので西成区にある新世界 ジャンジャン横丁は観光客でにぎわっている。

しかし道を挟んだドヤ街には初夏の夕暮れの趣きのある風情はない。

裏さびれた住人がゾンビのように廃墟を歩き回る。そんな荒んだ感情を想起させる場所だ。

古びた建物が夕焼けに反射してやたら街並みが乾いて見える。

西成警察署の前を通り過ぎ僕ら三人は彼が指定した飲み屋に向かいそして彼とあった。

 

ジムで見るより穏やかな様子でちょっと拍子抜けする感じだった。

しばらく僕らは今日の試合のことやジムの様子などの話で盛り上がった。

そして是非ジムに帰って来て欲しい。そう伝えたと思う。その辺りの記憶は曖昧だ。

それからしばらくしてジムに戻って来たのでおそらくそんなことは言ったのだろう。

 

そうして再び彼の指導の下で僕らは練習を再開することになったのだが、この一件で僕のボクシングに対する見方や考えは大きく変わることになった。

この一件で少なからずジムに関係するプロボクサーと意見を交わす機会があった。

そこで強く感じたのはこのジムの考えが特殊だと言うことだ。

世間一般のボクシングジムではインターバルで座り込んで他の練習生と喋るような練習生はいないと言うことだ。

少なくともしゃがみこんで休憩する奴は一人もいないらしい。

みんな勝つために必死で練習しており、トレーナーもそんな選手を強くするために担当制となっている。先に挙げたような練習っぷりならすぐジムメイトやトレーナーにやる気なしと見なされ放置される。

 

当然ボクシングに対する取り組みも真剣になる。

言葉は悪いがヘラヘラ笑ってスパーリングをする奴は一人もいないだろう。

試合にも簡単に出られない。少なくとも一年以上の練習期間を経てプロテストに通ってそれでやっと出場の機会は与えられる。

 

ボクサー達の話を聞くにつれて今まで僕が今までどのくらい甘い考えでボクシングをやって来たのか、この一件ではからずも思い知らされることとなった。

・・・

とあるアマチュアエリートボクサーと飲んで会話した内容。

 

僕「結局のところボクシングってスポーツじゃないよね?」

 

彼「藤原さん、今頃何言ってるの?そんなの当たり前やん。スポーツの要素はあるけどボクシングは殺し合いやよ

 

うすうす実感していたことをはっきりと突きつけられることになった。

やっぱりそうなのだ。

そして僕たちは余りにも簡単にスパーリングだ、試合だとジムの敷居が低いことを良いことに調子に乗っていたのだ。

Kトレーナーが敢えて激を飛ばすのもこのことをよく理解しているからだ。

しかしジムの方針が規則も緩く練習生に優しく接すると言うことで、大半の練習生はそれを当然のように受け入れてボクシングとはこんなもんだと思ってやっていたのではないか・・・

僕も含めてボクシングのスタートがこのジムであればそれも仕方のないことではあるのだが。

 

Kトレーナー引き留めの一件を境に僕は試合に出ることにすごく神経質になった。

練習中はインターバルでもほぼ休むことはなくなった。少なくとも座り込むことはしなくなったし、インターバル中は関係のない話で盛り上がることも極力少なくなった。

しっかり準備しないと大変なことになる。そして何よりも後悔はしたくない。

そう言う思いが頭を占めるようになった。

 

・・・

 

このように良くも悪くもKトレーナーとは深く関わった思いがある。

練習を離れての交流もあったし、何よりも練習生のために考えられる最高の練習環境を提供してくれた。

ボクシングに関しては本当に感謝している。

同時に彼の狭く偏った視点や考え、そしてお世辞にも上品とは言えない言動に徐々に嫌気が刺してくるようになった。

こちらも一介の練習生なのに時々彼が練習生と起こすトラブルに悩まされることもあった。

そうしたことが起こる度に知らず知らずの内に彼を遠ざけたい気持ちが膨れ上がって来た。

着任から一年経ってKは東京の名門プロジムからオファーが届き、本来の彼がいたプロボクシングの世界に戻って行った。

失効していたセコンドライセンスも再取得し、今では時々テレビで世界タイトルマッチを見るとチャンピオンの脇でセコンドに付いている姿を見掛けることもある。

ああ、頑張ってるんだなと思うと同時にもう会うことはない人物なのだ。とも思う。

言動、生活、行動も含めて一般人の僕とは住む世界が違うのだ。

 

(つづく)

 

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