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ジャブが当たる。
と言うことは相手と距離感が合っていると言うことだ。
試しにストレート系のボディを胃の辺りに入れてみた。
相手は後退する。
明らかに嫌がっている。
これはチャンスだ。
僕はどんどん相手をコーナーに詰めボディを叩きこんだ。
相手も応酬してくるがそんなことは全く気にならなかった。
余りパンチ力も強くない、そんなイメージだった。
いや、もしかしたら余りに攻めるのに夢中になっていて相手のパンチすら感じていなかったのかも知れない。
それほど気持ちがリズムに乗っていたのだろう。
この試合は2分3ラウンドで行われる。
第1ラウンド終了のゴングが鳴ってコーナーに戻っても僕は椅子に座ることもなく、Kトレーナーに絶対倒して勝つ!と吼えまくっていたのを憶えている。
Kからは相手は明らかに嫌がっているので引き続きボディを攻めろとの指示が出た。
第2ラウンド開始のゴングを聞き僕は足早にリング中央に飛び出て相手のボディを攻めた。
先ず一発目にボディ、プレスを強めてコーナーに詰めてボディを執拗に攻めた。
相手は明らかに嫌がっている。
そして徐々に反撃も弱くなってきている、つまり効いているのだ。
「ボディから上!ボディから上!!」コーナーでもう一人のKトレーナーが叫んでいるのが聞こえたので返しで左フックを打ったら「ナイス!」と言う歓声が聞こえた。
多分決まったのだろう。
僕にはコーナーの声が聞こえる余裕も生まれていた。
3ラウンド目。
僕は絶対的に優位な立場に立っていると確信した。
このまま攻め続けよう。絶対に倒してやる。
相手がロープを背負った。
そのまま執拗にボディを攻める。
「ストップ!」レフェリーが止め僕を相手から遠のくように指示した。
「ダウン取ったんや!」終盤のダウンは大きなアドバンテージだ。
僕はすみやかにニュートラルコーナーに向かった。
のだが、何とスリップ判定だった。
態勢を整えさせて再開、攻める僕、嫌がる相手、この構図は変わらず終了のゴングを聞いた。
「勝った。諦めずにやってて良かった・・・」
コーナーに戻り、ヘッドギアとグラブを外して貰いながら僕はそう思った。
達成感と高揚感が混じった晴れ晴れとした気持ちで判定を聞くためにリング中央に向かった。
僕ら二人を挟んで中央にレフェリーが立って勝者の手を上げる。
その瞬間を期待を込めて待つ。
これは貰ったに違いない。
うっすらと笑みがこぼれるのが自分でも分かる。
判定が出た。
手を挙げられたのは対戦相手だった。
(つづく)
いつも楽しく拝読しています。昨晩、教え子を連れ、内藤リッキーとのスパーでカシアス内藤先輩のジムにお邪魔しました。私事で恐縮ですが、内藤先輩とは38年ほど前、私が高校2年生の当時、スパーで胸を借り、久々の再会でしたが、往年のトークは衰えておらず、昔、エディさんと内藤先輩の漫才顔負けの会話を思い出しました。現在のジムも盛況で中高年の方々が黙々とジムワークに汗を流していました。
続きを楽しみにしています。
日体大ボクシング部コーチ
佐藤 恒雄