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「あの時の太郎さんのパンチは凄かった。対峙した時怖さを感じるパンチってあります。目の前でグーンっとズームするように伸びてくるパンチなんです。あの時の太郎さんのパンチがまさにそんな感じでした」
随分経ってから飲み会の席で高学歴君がこの時のスパーリングでの僕の様子をこう評してくれた。
自他確認できた程僕のボクシングはかなりのレベルアップをしていたのだろう。
高学歴君とのスパーリングの後、Oトレーナーのジムでもかなりのスパーリングを行った。
それは時にはO自らが相手の場合もあった。
Oは僕より3歳年上でプロを引退して随分経つが狂気を孕んだそのファイトスタイルにはたとえ手加減してくれているとは言え、強烈な恐怖を感じさせる雰囲気を放つので気の抜けないものだった。
もう一つのジムでのトレーナー時代、僕の挑戦をおっさん会社員の悪趣味程度にしか思っていなかったOだが、この頃はそんな考えも払しょくしてくれていたのだろう。
口下手なOはそうすることでボクシングと言う競技の厳しさを無言で僕に伝えようとしてくれていたのかも知れない。
随分歳が離れた学生ボクサーともスパーリングをした。
彼は僕より二回りほど巨漢で、格闘技経験も豊富でパワーも有り強かった。
しかし根が優しいのか追い詰められると心が折れ掛ける悪癖があった。
この頃になるとそうした対戦相手の心の癖も何となく掴めるようになり、そうしたチャンスは容赦なく突かせて貰った。
パワーファイターだったので練習相手としては打ってつけで彼とも何度も手合せして貰った。
しかしそれが仇となってしまうのだ。
ある日のスパーリングで、心が折れかけた彼を僕はチャンスとばかり追い詰めて連打を浴びせた。
レフェリングするOはプロ叩き上げなので、頭部にクリーンヒットしたくらいではダウンを取らない。
言葉は悪いが半殺し状態にでもならない限りストップしなかった。
かなりのパンチをまとめてガードの上、隙間に関わらず叩き込んだのだが彼は被弾しながらもそれに耐え、疲れて打ち終わった僕に目掛けて強烈な左フックを打ち込んで来た。
間一髪右腕でブロックしたのだが何せ元々が体格もパワーも違う相手なので、ブロックした腕ごと上体を持って行かれてしまい、その際踏ん張って首の筋を痛めてしまった。
その時はそれで済んだのだが、後日高学歴君とのスパーでまた同様の痛みが走り、慢性的に首筋を痛めた状態となってしまった。
そして試合本番を10日後に控えての本来所属するジムでスパーリングをしている最中、とうとう首の筋の痛みが爆発してしまった。
やはり頭部にパンチを打たれた際、額でパンチを受けパンチの圧力に持って行かれまいと首に力を込めた時、右の首の筋が悲鳴を上げてその後僕の右腕がダランと垂れ下がって上がらなくなってしまったのだ。
幸い肉離れは起こしていなかったが、急きょスパーリングは中止、アイシングが施された。
Kトレーナーからは試合までスパーの禁止を宣告され、来週良くなったら直前にもう一度感触を確認するために軽く実戦をしたいんだけどと申し出るも「太郎さん何言ってるんですか?」とにべもなく怒られ僕は初戦を迎えた時と同じく、最終の調整が出来ないまま試合当日を迎えなければならなくなった。
いつもこうなる・・・
一体どうなるのだろう?・・・
(つづく)
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