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最後の試合を目の前にして実戦の最終調整が出来ないのは辛かったが、もうひとつの闘いにも決着が着いていなかった。
そう減量だ。
今回は64㎏リミットのライトウェルター級でのエントリーとした。
身長170㎝ギリギリの僕にとって60㎏リミットのライト級でも体格を上回る選手が多いのだが、その一つ上の階級にしたのは、体力を維持したまま減量できる可能性が残せる階級であること。
そして僕がずっと手本にしてきた高学歴君がこのライトウェルター級を主戦場としていたからだ。
彼は僕のボクシングの手本だけでなく、体格もほぼ同じくらいだった。
8月中旬から74㎏の体重から始めた減量は試合のある10月上旬までに順調に減って行ったものの、同時に僕の体力も確実に奪った。
加えてかつて経験したことすらない夏バテの症状に悩まされ、毎日フラフラになり、ジム仲間の好意で頂いたサプリメントで騙しながら練習と減量を同時にこなしていた。
今回リミットを迎えるのはおそらく試合直前になるだろう。
事前にそう予測していたのだが、果たして結果は全くその通りとなり、試合前日の体重は65.5㎏だった。
やっぱり・・・予想通りやな、今日は何も食えんし何も飲めないな・・・
リミットまであと1.5㎏、その夜は絶食と絶水を覚悟した。
絶食は我慢できるけど、絶水はどうだろうな?
これから汗をかいて体重を落とすためにジョギングを敢行するのに全く水が飲めないとはかなり心細くなった。
でもやるしかない。
近所の公園のグラウンドをグルグル、トボトボとサウナスーツを着てジョギングする。
横で少年が数人で野球やサッカーをやってる。
その横を痩せこけた僕がまるでゾンビのようにトボトボと走る。
二時間・・・取敢えず二時間は走ろう・・・
一周走る度に進まない時計を見上げ、後何分かと確認する。
永遠の時が流れて二時間が経った。
自宅に戻って体重を測ると62㎏。
やった!リミットを2㎏クリア出来た。
もう飲み食いしなければこれで大丈夫だ。
ひと安心して洗面所の鏡を見ると、青白い痩せ衰えた自分の顔が映っていた。
海にも山にも行かず、飲み食いしたいものを我慢してひたすら暑い室内でただ殴り合いを繰り広げてきたこの夏。
試合が終わったら絶対ラーメンと餃子と炒飯の大盛りを食ってやる!
そう思いひたすらロープを跳び続けたこの数か月、いずれにせよ明日終わる。
絶対勝つんや、勝ちたいな、勝つんや、勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ・・・・
あ、髪の毛ボサボサやな、散髪に行こう・・・
いつもの散髪屋、若い店主とはいつもボクシング談義などして時間を過ごすのだが、この時はそんな元気も残っていず、
「いつものように頼むわ」
そう言って僕はそのまま眠ってしまった。
家に帰ると明日まですることはない。
後は明日リングの上で自分がやって来た事を出すだけだ。
明日は大学時代の先輩も応援に来てくれるらしい。
頑張らないとな・・・
「ちょっと写真撮ってくれへん?」
突然思いついて奥さんにそうお願いした。
試合で着るランニングとトランクス履いて、大魔神から貰った12ozのグラブ着けて。
「ちょっと遺影撮っておこう」
と奥さんにそう言って笑われながら僕はカメラに向かってファイティングポーズを決めた。
そう、明日全て決まる。
乗るか反るか?
泣いても笑ってもこれで最後。
出来れば笑ってリングを降りたい。

(つづく)
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